変形性膝関節症のリハビリテーション診療のすゝめシリーズ。
本日のテーマは、「膝の痛みが治らない…変形性膝関節症の本当の病態とは?」です。
変形性膝関節症は整形外科疾患で最も多い疾患の一つでありながら、未だ詳細な病態や発症メカニズム等については解明されていません。そのため、膝OA患者の予期しない症状の変化や病態の悪化は、我々リハビリテーション専門職を思い悩ませる種の1つになっています。
我々はどのように慢性疾患を捉え、診療すべきなのでしょうか。
本記事では膝OAを代表とした慢性疾患にフォーカスし、第1回目は「膝OAの病態」と「進行メカニズム」について解説します。
変形性膝関節症(膝OA)は単なる老化現象なのか?
変形性膝関節症(knee osteoarthritis, 膝OA)は加齢に伴う退行性変化の一つとされるが、その進行メカニズムには多因子が関与します。単なる老化ではなく、関節の生体力学的ストレスや筋骨格系の適応不全が大きく影響しています。

Andriacchiらは、OAの生物学的、力学的、構造的要因を統合したシステムモデルを開発し、加齢、肥満、関節外傷といった主要なリスク要因が臨床的なOAの発症前にどのように影響するかを検討しています。この分析により、OAの発症リスクは、力学的要因などの一部の要素が異常となり、他の要素(生物学的または構造的要因)との相互作用によって軟骨の破壊や臨床的なOAへの進行が促進されることが示唆されています。
さらに、このモデルを刺激-応答形式で適用した結果、初期の力学的刺激がバイオマーカーの感受性を高め、膝OA患者の5年間の追跡調査において軟骨の薄化を予測することが示されました。
つまり膝OAの進行メカニズムは、力学的、構造的、生物学的要因の相互作用によって引き起こされ、これらの要因のバランスの崩れが軟骨の破壊と臨床的なOAの進行につながるとされています。
リハ専門職として、患者に「年齢のせい」と片付けるのではなく、膝関節の構造的変化と運動力学的な要因を評価し、適切な介入を行うことがもっとも重要であると考えています。
膝OAの病態と進行メカニズム
1. 関節軟骨の変性と負荷の不均衡
関節軟骨は荷重や摩擦に耐える構造を持つますが、繰り返しの負荷や不適切な荷重分布により徐々に摩耗し、軟骨細胞のアポトーシスやマトリックス分解が進行します。
関節への過度なストレスは、軟骨細胞を変性させ軟骨下骨を吸収させる;
Overloading stress–induced progressive degeneration and self-repair in condylar cartilage
顎関節症では過負荷ストレスが関節軟骨を変性させますが、この変性に対する軟骨の自己修復能力は明らかになっていません。そこでFang Lらは、関節軟骨変性の進行過程と自己修復能力の関係性に着目しています。
動物モデルでは、関節軟骨への過度なストレスが発生すると、短期的に圧縮部分の軟骨細胞が増殖し、その時点では可逆的変化であることを報告しています。しかし一方で長期的に過度なストレスが発生すると軟骨細胞が変性し、軟骨下骨の吸収が始まるとしています。
* Annals of the New York Academy of Sciences, 2021年11月
* DOI: 10.1111/nyas.14606
* 著者: Fang L, Ye Y, Tan X, Huang L, He Y
関節のストレスの喪失は軟骨へ悪影響を与える;
Cartilage: from biomechanics to physical therapy (Le cartilage : de la mécanobiologie au traitement physique)
軟骨への適度なメカニカルストレスは軟骨細胞を活性化させます。しかし極端なストレスの喪失は軟骨細胞の代謝を低下させることで、細胞外マトリックスの合成が低下します。それに続いて細胞外マトリックス(コラーゲン・プロテオグリカン)の分解が進行し、軟骨の構造が脆弱化するとされています。
* Annales de Réadaptation et de Médecine Physique, 2001年
* DOI: 10.1016/s0168-6054(01)00099-x
* 著者: Rannou F, Poiraudeau S, Revel M
2. 半月板の機能障害と内側支持機構の破綻
半月板は荷重分散の役割を持ちますが、逸脱(MME: medial meniscus extrusion)や後根損傷(MMPRT: medial meniscus posterior root tear)によって荷重負荷が増大し、膝OAの進行に寄与します。
MMPRTを修復した方がTKA施行率が低い;
Comparison of Long-term Radiographic Outcomes and Rate and Time for
Conversion to Total Knee Arthroplasty Between Repair and Meniscectomy for Medial Meniscus Posterior Root Tears A Systematic Review and Meta-analysis
膝OAの進行に重大な影響を与えるMMPRTですが、修復術と切除術の治療成績を長期的に観察した研究はありませんでした。Krivicichらは、4年以上にわたってレントゲンによるOA進行率とTKAへの移行率を比較し、より確実なエビデンスを構築することにチャレンジしています。
半月板修復術は、半月板切除術に比べて長期的なOA進行を抑制し、TKAへの移行率を低下させる( 修復術を受けた患者の9.8%がTKAへ移行したのに対し、半月板切除術では36%がTKAへ移行)。また 術後の膝機能(IKDCスコア)には両群で有意差はなかったが、OA進行の抑制という観点では修復術が優れているとの結果を報告しています。
* American Journal of Sports Medicine, 2022年6月
* DOI: 10.1177/03635465211017514
* 著者: Krivicich LM, Kunze KN, Parvaresh KC, et al.
3. 筋機能不全と関節アライメントの崩れ
股関節・膝関節周囲の筋機能低下により、関節の安定性が低下し、代償的な歩容変化(例:トレンデレンブルグ歩行、stiff knee gait)が発生。これにより関節へのストレスが増加し、二次的な変性を促す。
異常歩行は関節ストレスを増加させ、OA進行を促進する可能性が高い;
A biomechanical approach to musculoskeletal disease
筋骨格疾患、特に変形性関節症(OA)の進行には生体力学的要因が関与しています。
神経筋システムの特性は、関節機能・安定性を決定する重要な要素であり、筋力、固有受容感覚(proprioception)、歩行パターン、動的荷重の分布によって決定されます。システム不全は関節軟骨の生化学的構造にも影響を及ぼし、関節への負荷が不均衡になり、OAのリスクが高まるとされています。
筋力低下や固有受容感覚(proprioception)の低下は、関節へのダイナミックな負荷や不安定な荷重と関連しており、OAの進行を加速する可能性があります。しかし未だ具体的な解決手法については明らかになっていません。
まとめ:リハビリ専門職の介入ポイント
- 病態生理を理解し、構造的・機能的評価を徹底する
- 半月板機能や荷重アライメントを考慮したエクササイズ処方を行う
- 筋力強化のみでなく、動作分析に基づいた運動学的アプローチを導入する
- 運動器エコーを活用し、早期OA病態の評価を行う
次回は「膝OAの進行抑制に向けたリハビリ介入戦略;解剖学的特徴と生体力学の関係」について詳しく解説します!
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