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【第2回】膝OAの進行抑制に向けたリハビリ介入戦略;解剖学的特徴と生体力学の関係

変形性膝関節症のリハビリテーション診療のすゝめシリーズ。
本日のテーマは、「膝OAの進行抑制に向けたリハビリ介入戦略;解剖学的特徴と生体力学の関係」です。

変形性膝関節症は整形外科疾患で最も多い疾患の一つでありながら、未だ詳細な病態や発症メカニズム等については解明されていません。そのため、膝OA患者の予期しない症状の変化や病態の悪化は、我々リハビリテーション専門職を思い悩ませる種の1つになっています。

我々はどのように慢性疾患を捉え、診療すべきなのでしょうか。

第1回目は、「膝の痛みが治らない…変形性膝関節症の本当の病態とは?」というテーマでした。
まだ読んでいない方は、コチラから先に読んでください。

今回は、膝OAの進行を抑制するためにリハビリ専門職がどのように介入すべきかについて、 解剖学的特徴と生体力学の視点から考察していきます。

目次

膝OAの進行を抑制するための4つの視点

膝OAのリハビリテーション介入では、以下の3つの視点が重要です。

  1. 膝関節の解剖学と運動学的特徴
  2. 膝関節における大腿骨と脛骨の接触面積
  3. 正常膝と半月板損傷膝での関節接触面に生じる圧力変化触面に生じる圧力変化
  4. 関節軟骨の変性は脛骨後方から始まる?

1. 膝関節の解剖学と運動学的特徴

膝関節は、大腿骨、脛骨、膝蓋骨から構成される荷重関節であり、安定性と可動性を兼ね備えています。その動態を理解するために、以下の3つのポイントを押さえる必要があります。

大腿骨顆部の骨形状

  • 大腿骨顆部の曲率半径は前方と後方で異なる
    • 前方では半径が大きく、後方に行くほど曲率が急になる
    • 屈曲時には大腿骨顆部の後方が脛骨プラトーと接触し、接触面積が減少する

脛骨プラトーの内外側の構造的差異

  • 脛骨プラトーの形状は内側と外側で異なる
    • 内側は凹状(concave)で安定性が高い(左図)
    • 外側は平坦または凸状(convex)で可動性が高い(右図)
    • これにより、膝関節は屈伸運動に伴いわずかに回旋する特性を持つ
カパンジー機能解剖学 II 下肢 原著第6版より引用
大腿骨顆部の下方部分(伸展位での接触部分)と後方部分(屈曲位での接触部分)の曲率半径の違い。
◯のサイズに比例して曲率半径は大きくなる。 (左:内側面、右:外側面)
引用)Tibiofemoral movement 1: the shapes and relative movements of the femur and tibia in the unloaded cadaver knee

半月板の形状と動き

  • 内側半月板と外側半月板の機能的違い
    • 内側半月板は厚みがあり、安定性を担う(内側側副靭帯と結合)
    • 外側半月板は可動性が高く、衝撃吸収を担う(後方へのスライドが可能)
    • 屈曲時には特に外側半月板が大腿骨顆部の動きに応じて後方へ移動

膝関節の運動学(関節接触点の軌跡)

膝関節の動きは単純な蝶番運動ではなく、関節接触点が前後に移動する「ロールバック現象(rollback)」が発生します。この動態を理解することで、膝OAの進行抑制に向けた介入がより適切になります。

  • 膝伸展時(0°〜20°)
    • 大腿骨顆部の前方が脛骨プラトーと接触
    • 接触面積が広く、荷重が均等に分散
  • 膝屈曲時(30°〜90°)
    • 大腿骨顆部の接触点が後方へ移動(ロールバック現象)
    • 接触面積が減少し、特定部位への負担が増加
    • 特に脛骨後方部への荷重集中がOA進行の要因となる
膝関節の屈伸運動に合わせて脛骨上の大腿骨の動きを可視化している。
外側関節面では伸展位では前方位、屈曲位では後方位に変位する様子。
引用)Tibiofemoral movement 1: the shapes and relative movements of the femur and tibia in the unloaded cadaver knee
大腿骨と脛骨の各関節角度での位置関係を示す(左:関節内側面、右:関節外側面)
引用改変)Tibiofemoral movement 1: the shapes and relative movements of the femur and tibia in the unloaded cadaver knee 

このような運動学的特性を踏まえ、膝OA患者のリハビリでは、屈曲角度に応じた荷重管理と半月板の可動性を考慮したアプローチが求められます。

▼ぜひ参考にしてほしい論文▼

2. 膝関節における大腿骨と脛骨の接触面積

膝関節の接触面積は、屈曲角度によって変化し、それが関節内の荷重分布に影響を与えます。

膝伸展位 vs. 膝屈曲位の接触面積

大腿骨顆部の曲率半径が異なるため、膝伸展位と屈曲位では接触面積が異なります。

  • 膝伸展位(0°〜20°)
    • 接触面積が広い → 荷重が分散され、単位面積あたりの圧力が低い
    • 大腿骨顆部の前方が脛骨プラトーと接触
    • 半月板の安定化作用が発揮される
  • 膝屈曲位(30°〜90°以上)
    • 接触面積が減少 → 荷重が局所に集中し、単位面積あたりの圧力が上昇
    • 大腿骨顆部の後方が脛骨プラトーと接触
    • 半月板の後方移動が生じるが、損傷があると適切な動きが阻害される
完全伸展位では脛骨前方〜中央と大腿骨課部中央、完全屈曲位では脛骨後方と大腿骨課部後方で接触
FULL Extension:完全伸展位、Deep Flexion:完全屈曲位、赤:骨同士の接触領域、オレンジ:半月板の接触エリア
引用)Magnetic resonance image analysis of meniscal translation and tibio-menisco-femoral contact in deep knee flexion

半月板による安定化作用

半月板は大腿骨に対する支持面積を増やすために機能しています。

半月板の逸脱や損傷があると、接触面積が低下し、関節圧が増加
半月板は接触面積を増やし、関節荷重を分散させる役割を持つ

左図:△部分が半月板部分。大腿骨の形状に沿って支持面積を拡大している
右図:関節面に荷重応力が発生すると、半月板が外にはじき出されるような力(矢印)が発生する(Hoop応力)
引用)Review of Meniscus Anatomy and Biomechanics
有限要素法により膝伸展0/20/30°における脛骨回旋時の半月板に生じるHoop応力を計算
半月板は荷重支持をサポートするだけなく、骨運動学の安定作用もあることがわかる
引用)Predicting meniscal tear stability across knee-joint flexion using finiteelement analysis

3. 正常膝と半月板損傷膝での関節接触面に生じる圧力変化

関節軟骨は局所的に強い機械的ストレス(メカニカルストレス)が発生することを嫌がります。これは強い力が持続的発生すると軟骨細胞が耐えきれずに変性してしまうためです。

膝屈曲位での関節接触応力の上昇

関節接触部の応力は、接触圧と接触領域の関係性で決まります。
強い力でも広い面積で支えれば負担は軽減できますし、弱い力でも支える面積が小さければ負担は増加します。

Intact:正常、PMMP repair:内側半月板後根断裂修復、PMMR tear:内側半月板後根断裂、Total Meniscectomy:半月板切除
内側関節面では、接触圧はIntact/PMMR repairが低く、接触領域も広いことがわかります。
引用)Magnetic resonance image analysis of meniscal translation and tibio-menisco-femoral contact in deep knee flexion
半月板損傷または欠損膝では膝屈曲角度が増加するにつれて接触圧が増加することがわかります。
Intact:正常、PMMP repair:内側半月板後根断裂修復、PMMR tear:内側半月板後根断裂、Total Meniscectomy:半月板切除
引用)Magnetic resonance image analysis of meniscal translation and tibio-menisco-femoral contact in deep knee flexion

つまり、関節接触応力は膝関節の屈曲角度の増加、及び半月板損傷(または欠損)の有無によって、大きく変動することがわかります。

半月板損傷後の機能不全

  • 半月板の逸脱や損傷が発生すると、関節の接触面積が減少し、支持面積が狭くなる
  • 結果として、関節軟骨にかかる応力が上昇し、OAの進行が加速
有限要素法により内側半月板後根損傷後の半月板逸脱率を算出(緑:半月板、紫:損傷による半月板の逸脱量)
術前(Pre-operation)より修復術後(Post-operation)の方が逸脱料が少ないのがわかる。
引用)A novel suture technique to reduce the meniscus extrusion in the pullout repair for medial meniscus posterior root tears

内側半月板後根損傷のため半月板の逸脱も後外側へ大きいことがわかります。
膝屈曲角度が増加した場合では、より逸脱することが予想されます。

半月板修復とOA進行リスク

  • 半月板修復術を行うことで接触面積を維持できると、治療成績が良好
  • 逆に、半月板部分切除を行うと、TKAへの移行率が上昇し、OAグレードの進行が早まる
引用)Comparison of Long-term Radiographic Outcomes and Rate and Time for Conversion to Total Knee Arthroplasty Between Repair and Meniscectomy for Medial Meniscus Posterior Root Tears: A Systematic Review and Meta-analysis

半月板の修復術は切除術と比較して、TKA-Conversion Rate、KL score-progressionともに低く安定した成績を残している。言い換えれば半月板の役割の重要性が示された。

4. 関節軟骨の変性は脛骨後方から始まる?

膝関節軟骨の変性は脛骨後方部で発生しやすいかもしれない

下の図は1985年に28屍体、52膝関節を対象に、関節軟骨の厚さと肉眼的変化を調べた研究である。

肉眼初見で脛骨後方部の軟骨表面にラフネスや潰瘍を認めている。

各段で斜線部の軟骨の状態を表記している。最上段であれば半月板前角部の軟骨の状態。
左は軟骨厚、右は肉眼初見。肉眼初見では脛骨後方部分の関節軟骨にラフネスや潰瘍を認める。
引用)膝脛骨関節軟骨の厚さと肉眼的変化

まとめ:リハ専門職が意識すべきポイント

膝OAの進行抑制には、膝関節の解剖学的特徴と荷重の変化を理解し、適切な介入を行うことが不可欠です。

ポイントまとめ

 ・ 膝関節の接触面積は伸展位の方が広く、屈曲位では圧力が増大する

 ・ 半月板は荷重分散に寄与し、損傷があるとOAリスクが上昇 

・ リハビリでは深い屈曲位での荷重を避け、関節の安定化を図る

オススメの書籍・参考書

1,カパンジー機能解剖学(医歯薬出版)
  ・上肢編はこちら
  ・下肢編はこちら
  ・脊椎・体幹・頭部編はこちら

2,図解 関節・運動器の機能解剖 (下肢巻)

3,図解 関節・運動器の機能解剖 (上肢巻)

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