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【第4回】膝OA患者の膝関節伸展可動域改善の実際

こんにちは。3D SHIFTシリーズ第4回のテーマは、「膝OA患者の膝関節伸展可動域改善の実際」です。

前回(第3回)では、膝OA患者の歩行におけるハムストリングス優位な筋活動とその背景にある神経筋制御の変化について解説しました。その中で、大腿四頭筋(特に内側広筋)の活動が低下していること、そしてH/Q比の乱れが膝関節の動的アライメントに悪影響を及ぼしていることを紹介しました。

今回は、それを受けて「どう改善していくのか?」という臨床的アプローチに焦点を当てていきます。


目次

膝OAにおける膝伸展機能の再構築

膝OA患者では、膝伸展の制限が多く見られます。この背景には、単なる筋力低下だけでなく、以下の要因が複合的に絡み合っています:

  • 関節可動域(ROM)の制限:軟部組織の短縮や関節包の拘縮により、膝伸展末期可動域が制限される。
  • 主動作筋・拮抗筋の同時収縮(co-contraction):四頭筋とハムストリングスの過剰な共収縮により、関節の可動性が低下し、力の発揮効率が下がる。
  • 神経筋再教育の不十分さ:運動恐怖や疼痛回避による代償動作が習慣化している。

臨床での膝OA患者に対するリハ介入では、膝伸展制限を改善することが最重要介入ポイントになります
まだ読んでいない方はこちらの記事をご覧ください。

これらを踏まえ、膝伸展位での関節安定性を回復させるためには、単なる筋トレではなく、段階的かつ戦略的なリハビリテーション介入が必要です。


症状に応じたリハビリ戦略

関節可動域制限に対しての介入

膝OA患者の膝伸展可動域を制限する原因はなんでしょうか?

関節軟骨変性が進行した膝関節では、膝拘縮し伸展制限を改善できないことがあります。しかし、少しでも改善するためには、膝関節の可動域を制限する要因を理解し、適切に介入する必要があります。

TKA患者に対して術中に後方関節包の剥離をすると、膝屈曲拘縮が優位に改善すると多数報告されています。つまり膝屈曲拘縮の要因は後方の関節包の癒着が要因になる可能性が高く考えられます。

膝OA患者の伸展可動域を制限する要因は、”後方関節包の伸長性低下”が要因


参考
1,Effect of posterior capsular release on intraoperative joint gap mismatch in the mid-flexion range during posterior-stabilized total knee arthroplasty
2,Posterior capsular release is a biomechanically safe procedure to perform in total knee arthroplasty
3,Efficacy of posterior capsular release for flexion contracture in posterior-stabilized total knee arthroplasty
4,Arthroscopic Posterior Capsular Release Improves Range of Motion and Outcomes for Flexion Contracture After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction in Athletes

最適な介入方法とは?

では我々リハビリテーション職は、膝屈曲拘縮がある膝OA患者に対して、どのように介入すべきなのか。

関節包の伸長性を改善する方法

臨床で関節包を含む関節構成体の軟部組織の伸長性を改善するためには、かなりの労力が必要になります。

そのため膝関節の伸展制限が「後方関節包の伸長性低下」に起因している場合、リハビリテーションにおけるアプローチは、短期的なストレッチやモビライゼーションでは不十分である可能性があります。

この点については、肩関節拘縮に対する非観血的授動術(manipulation under anesthesia:MUA)の考え方が示唆に富みます。臨床では肩関節の可動域制限改善のために、筋・関節包の粘弾性を超えるような高強度かつ持続的な外力を加えることが効果的であるとされています。
実際に肩関節拘縮に対するMUAでは、麻酔下で関節包を微細損傷させながら肩関節の可動域が拡大するまで何度も操作を繰り返します。

つまり、我々のほうなリハビリテーション職が体表からマッサージや簡易的なストレッチをするだけでは、関節包の伸長性の改善はなかなか難しいです。

マッサージやROM-exでは関節包の伸長性改善は難しい

そのため、膝関節も同様に、後方関節包に対して十分な伸長刺激を加えるためには、単発的なストレッチではなく、以下のような戦略的アプローチが必要です。

① 持続的ストレッチ(LLLDストレッチ:Low Load Long Duration)g Duration)

軟部組織の変性や粘弾性変化に対して効果的とされる方法です。
低強度ながらも10〜20分以上の持続的な伸展位保持を行うことで、後方関節包に“時間依存的”な伸張を促します。

参考:Schlegel T F, et al. 2002

上記は膝伸展可動域の左右差を検査するHHDテストですが、膝蓋骨より遠位をベッド端から出して、下腿部自重で膝を伸展させます。
この肢位で10~20分程度保持することで後方関節包を伸長させます。

施術者による高強度モビライゼーション

通常の関節モビライゼーションではなく、III〜IVグレード終末域への強制モビライゼーションを実施します。

この時には、関節包前方滑り(Anterior glide)をベースに、可動域の方向性をコントロールすることが重要です。またマニピュレーションの熟練した技術が必要となります。
骨粗鬆症を併発しているような患者さんに対して、力任せな手技を実施する場合にはリスクが伴うので、熟練者以外には、あまりおすすめはしない方法です。

同時収縮に対する対応

膝OA患者では大腿四頭筋とハムストリングスが同時収縮する現象をよく見ます。
膝伸展位への誘導は非常に重要であり、上記問題は早期に解決する必要があります。

最適な介入方法とは?

大腿四頭筋とハムストリングスの同時収縮に対する対応

— 相反抑制を活用したリハビリ戦略 —

膝OA患者の中には、大腿四頭筋とハムストリングスが同時に過剰に収縮(co-contraction)してしまい、関節運動の滑らかさが失われているケースが散見されます。

これは関節の安定性を確保しようとする“身体の防御的戦略”とも言えますが、結果として関節可動域の制限や筋出力の低下につながります。

こうしたケースに対して有効なのが、相反抑制(reciprocal inhibition)を活用した介入です。


相反抑制とは?
相反抑制とは、一方の筋(主動作筋)を意図的に収縮させることで、拮抗筋の緊張を反射的に抑制する神経生理学的メカニズムのことです。
膝関節では、大腿四頭筋(伸展筋)を最大限に活動させることで、ハムストリングス(屈筋)の活動を一時的に抑制できます。

瞬発的な四頭筋の収縮誘導

等尺性収縮を用いて、瞬発的に最大随意収縮(MVC)を誘導します。
この時、”瞬発的”かつ”最大出力”で発揮することで、相反抑制を利用することができます。

例:膝伸展位で「5秒間思い切り伸ばす!」と指示(痛みのない範囲で)

徒手抵抗 or バンド抵抗を用いた収縮訓練

徒手やバンドなどの外的抵抗を利用して、大腿四頭筋の等尺性収縮を誘導します。
外部抵抗にしっかりと抗するように意識づけることで、主動作筋の収縮が強化され、その反射的効果としてハムストリングスの活動が抑制されます。

例:セラバンドを使って膝伸展方向へ「しっかり押し切るように!」と5秒間収縮(痛みのない範囲で)

筋電図(EMG)やバイオフィードバックの活用

筋電図やフィードバック装置を活用し、視覚・聴覚的な情報を通して筋活動の状態を“見える化”します。
大腿四頭筋の活動を高めた瞬間に、ハムストリングスの活動が下がることをリアルタイムで確認することで、神経筋制御の誤学習を修正し、正しい運動パターンを再学習する効果が期待されます。

例:「画面を見ながら、大腿四頭筋のバーを高く、ハムストリングスのバーを下げてみよう」と指示し、収縮パターンを調整

まとめ:膝OAリハビリの鍵は「伸展機能の再構築」と「筋活動の最適化」


膝OA患者に対する効果的なリハビリテーションを進める上で、膝伸展機能の再構築は最も重要なターゲットのひとつです。単なる筋力強化ではなく、「可動域制限の要因」や「神経筋制御の乱れ」を正しく見極め、それぞれに応じた戦略的な介入が求められます。

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