本記事では、トランポリン選手のトレーニングに携わる筆者の視点から、トランポリン競技の特徴を生体力学や運動学の視点から分析し、理学療法士の関わり方について解説してきたいと思います。
第1回目は「競技特性とパフォーマンス向上のポイント」と題しまして、
- トランポリン競技の基本動作と生体力学的特徴
- パフォーマンス向上のために必要なフィジカル要素
について、文献を用いながら解説していきます。
トランポリン競技の基本動作と生体力学的特徴
トランポリン競技の基本動作
トランポリン競技では、以下の3つの基本動作が土台となり、複雑な技へとつながります。
(1) ストレートジャンプ (Straight Jump)
- 基本の垂直跳び
- 空中での姿勢制御と安定した着地が求められる
(2)シートドロップ (Seat Drop)
- 座った状態でトランポリン面に着地し、その反発を利用して再び跳ぶ
- 姿勢維持のための体幹と股関節の安定性が重要
(3)バックドロップ (Back Drop)
- 背中でトランポリン面に着地する動作
- 正確な重心コントロールが求められる
これらの基本動作を組み合わせながら、空中での回転やひねりなどの複雑な技に発展していきます。
生体力学的特徴
トランポリン競技特有の身体の使い方を理解するために、以下の3つの要素が重要です。
(1) 跳躍高のメカニズム
- 跳躍高を最大化するには、地面反力 (Ground Reaction Force, GRF) と関節の伸展力が重要です。
- 足関節・膝関節・股関節の3つの関節同時伸展 (Triple Extension) が、地面反力を最大化するカギになります。
(2) 空中姿勢の制御
- 空中では視覚、前庭感覚、体性感覚の3つが連携して姿勢制御を行います。
- 空中での体の傾きに対して、腕や脚の動きで重心をコントロールする技術が求められます。
- 「閉脚姿勢」での安定性を高めるためには、体幹のインナーマッスルの活用が重要です。
(3) 着地時の衝撃吸収
- トランポリンの特性上、着地時には急激な減速が発生します。
- 安定した着地には、足関節・膝関節の屈曲による衝撃吸収が重要です。
パフォーマンス向上のために必要なフィジカル要素
トランポリン競技のパフォーマンス向上に関わるフィジカル要素について、今回は「跳躍高」に焦点を絞って、科学的な根拠に基づきながら解説していきます。
跳躍高に影響を与える主な要素
跳躍高はトランポリン競技の「Time of Flight (ToF)」スコアに直結し、フィジカル要素が重要とされています。以下の論文を参考に、跳躍高に影響を与える要素について、解説していきます。
この研究の主な目的は、シニアおよびジュニアエリートレベルのトランポリン体操選手のベッド外での身体パフォーマンス測定と最大ToFとの関係を調査しています。
研究には、32名のエリートトランポリン選手が参加しています。 対象者は、シニア (13名、平均21歳) と ジュニア (19名、平均15歳) の2グループに分類されました。 シニア選手は、オリンピックや世界選手権などの国際大会経験者、ジュニア選手は、年齢別の国際大会に出場している選手が対象です。
1. 最大ジャンプ時間測定 (20-Max Test)
20回連続ジャンプテストを実施し、次の2点を記録。
- 合計滞空時間 (Total ToF):空中にいた合計時間(跳躍高の指標)
- 平均接地時間 (Average Contact Time):トランポリン面に接触している平均時間(反発力の指標)
- 床上のフィジカル測定
以下のテストで筋力やパワーを評価。
- CMJ (カウンタームーブメントジャンプ):跳躍高や最大筋力を測定
- 10 to 5 RSI テスト:連続ジャンプ中の反発力を測定
- 片脚ドロップジャンプ:片脚ジャンプの高さや安定性を評価
- サイクリングPPOテスト:短時間の最大パワー発揮を測定
この研究の結果では、シニア選手とジュニア選手で、跳躍高 (Time of Flight; ToF) に影響を与える要因が異なることが明らかになりました。以下に主な結果を解説します。
1. シニア選手の結果
- 最も重要な要因:カウンタームーブメントジャンプの理論上の最大筋力 (CMJ F0)
- CMJ F0は、シニア選手のToFの72%の変動要因とされ、最大筋力が跳躍時間の向上に直結していました。
- 特に、膝伸展筋群の等尺性筋力や短いレンジでの爆発的な力発揮が重要であると指摘されています。
2. ジュニア選手の結果
- 最も重要な要因:カウンタームーブメントジャンプの跳躍高 (CMJ Height)
- CMJ Heightが、ジュニア選手のToFの59%の変動要因として特に重要でした。
- さらに、リアクティブストレングスインデックス (RSI)が13%、CMJ F0が10%の影響を持ち、これら3つでToFの82%が説明される結果となりました。
3. 全体的な結論と実践のヒント
- シニア選手は、最大筋力 (CMJ F0) を高めるためのトレーニングが効果的。
- ジュニア選手は、跳躍高 (CMJ Height) とRSIを強化するトレーニングが重要。
- RSI向上には、プライオメトリクスやドロップジャンプが効果的。
- 着地時の安定性向上には、エキセントリックトレーニングが推奨されています。

次の記事では、跳躍高にかかわる主要な筋群とその役割について、またトレーニングをしていく上での具体的なアプローチ方法について詳しく解説していきます!
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